妙好人の世界【おその】
おそのさんは、愛知県渥美郡田原町に生まれ、一生お念仏の生活を送られた人です。
今も4月4日の命日には、その遺徳を偲んで法座が催され、「親鸞聖人の奥さま恵信尼さまのような方であったろう」と慕われています。
おそのさんにはこのようなお話があります。
ある日お寺にお参りしての帰り道、あまり人が通らない山道を近道と考え急いで帰ったのだそうです。ところが山の中で、ひょいと目の前に大きな山犬が現れたのです。
飢えた山犬なら一人ぐらいは飛びついて殺す力を持っていると言われていますが、その山犬がヌーっと現れたものですから、おそのさん驚いたのなんの。
腰抜かし、その場に座り込んで目を瞑って両手で頭を抱えてうずくまったというのです。「今、飛びつかれるか、今食いつかれるか」と怯えていました。
しかし山犬は一向に飛びかかってくる様子もないのです。
ふと我に返ったおそのさん、恐る恐る目を開けてみると山犬が道の向こうに消えていくところでした。
おそのさんは飛ぶようにして家に帰ったのでした。家に帰るとお内仏の前にどかっと座り込んで「三世の諸仏に捨てられた身と聞かされてまいりましたが、山犬までもが見捨てていきました。」と泣く泣く味わいを語ったという話です。
山犬までが見捨てていくどうしようもない煩悩具足の凡夫の私なのです。
親鸞聖人は、ご和讃に、
【十方微塵世界の 念仏の衆生をみそなわし 摂取してすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる】(浄土和讃)
とおっしゃったように、どうしようもない煩悩具足の常にがんじがらめの苦悩のこの私を既にお見抜きくださり、だからこそお慈悲の心をもって決して見捨てない、必ず救うとはたらいていてくださるのが阿弥陀さまなのです。
おかげさまですと、ただお念仏を申させていただきながら一日を過ごさせていただきましょう。
また親鸞聖人は、ご和讃に、
【五濁悪世のわれらこそ 金剛の信心ばかりにて ながく生死をすてはてて 自然の浄土にいたるなれ】(高僧和讃)
と、迷いを離れる縁もない五濁悪世の私たちが、助かる道はただ一つ、阿弥陀如来の金剛他力の信心で永久に生死の迷いを捨て果てて浄土に至らせていただくことなのです。阿弥陀さまの今ここで私一人のためにはたらいてくださるご恩に、ともに南無阿弥陀仏をお称えさせていただきながら生きていきましょう。ナンマンダブツ